社会に出たらTOEICのスコア必要だよね!留学にも使えるって言うし、頑張って良いスコア取ろう!
そうだね。。。でも、ちょっと待って。TOEICの勉強を始める前に知っておいた方が良いことがあるよ
実はTOEICで高得点を取っても、多分あなたが想像している「英語ができる人」にはなりません。ネイティブだったら、当然、TOEICでもTOEFLでも英検でも、どんな英語の試験だってほぼ満点が取れるでしょう。それは圧倒的な英語力があるから当たり前です。しかし、その逆、高得点=高い英語力は必ずしも成立しません。つまり第2言語として英語を使う者にとって、「TOEIC高得点」と「英語でコミュニケーションができる」は必ずしもイコールではないのです。
私は30年以上紆余曲折しながら英語を勉強し、TOEIC、TOEFL、英検を受験してきました。アメリカの大学を卒業して、現在アメリカ生活は約4年になります。まだまだ英語ができない身ではありますが、実際にアメリカで過ごしてみて、TOEICは英語力を計る指標として適切なのか疑問があります。
1. TOEICは意味がないと言われる理由
結論から言うと、TOEIC で高得点をとっても、実際に電話、雑談、商品の売り込み、書類作成、プレゼンなどが英語でできる訳ではない=ビジネス上で必要な英語力があることにはなりません。そればかりか、英語圏の大学入学にも使われていません。
留学する際、提携によりTOEICのスコアで入学許可を出す大学もあるそうですが、ソレ、個人的には気をつけた方が良いと思います。英語圏ではTOEICは英語力を計る試験として認知されておらず、学校側がスコアを評価するのが難しいからです。そのため学校側にTOEICのスコアを出しても却下されてしまい、TOEFLスコアを要求されることがあります。「こんなの聞いてない!」と後で泣かないために、エージェントを通して留学するとしても、自分で早めに学校へ直接確認を取った方が良いです。
① 世界でTOEICを英語力の指標にしている国はほとんどない事実
日本では、ビジネス上はTOEIC、全体的には英検、留学したいならTOEFLという分けがあって、日本社会における重要性はTOEIC>英検>TOEFLというのが一般的な認識だと思います。
でも実は、TOEICが重用されているのは世界中で日本と韓国ぐらいなのをご存知ですか?
英語圏の国々では、外国人の英語力を計るのにTOEICは用いません。多分その存在も知らない。英語を第2言語とする外国人が英語圏の大学に入りたい場合は、TOEFLかIELTSのスコアが必要です。もしくは語学学校へ行って必要とされる英語力が得られるまで勉強しなければならない。
では社会に出たら何を持って判断されるのでしょうか?英語圏の求人情報では、「ビジネスレベルの英語で流暢に会話したり、読み書きができる」という採用条件をよく目にします。これは外国人向けというより、ネイティブ向けに書かれています。というのは、ネイティブであっても語学力がなく、フォーマルにビジネス上でコミュニケーションが取れない人は結構多いからです。また「ネイティブと同等な英語力」を条件にしている求人も見かけます。これは外国人採用も念頭に入れていると思います。
しかし、そこで「試験のスコア○○○点以上」という条件は見たことがありません。理由は簡単。一つは学歴と英語圏の在住年数、ちょっとしたやり取りである程度の英語力を判断できるから。もう一つは、実際に採用する側のネイティブが面接すれば、その人の英語力はすぐ確認できるからです。
TOEICの開発・運営を行うETSの公式ページには「TOEICのスコアは160ヶ国以上、14,000以上の企業・団体で使われている」ワールドワイドな英語検定試験とあります。本当でしょうか?
ETSの2019年TOEIC L&Rのレポートを見てみましょう。このレポートには49ヶ国の国別平均スコアが掲載されています。なぜ49ヶ国か?それはサンプル数=受験者数が500人以上のところに限定しているからです。つまり、160ヶ国のうち111ヶ国は受験者数が500人に満たないのです。スコアが公表されている49ヶ国の中には、不思議なことにカナダ、インド、フィリピンといった英語を公用語とする国も含まれています。何故かインドやフィリピンの順位が低いのも不思議です。ネイティブは英語の試験なんて受けませんから、明らかに現地の非ネイティブが受験した結果です。
ETSの2005年公式発表では、TOEIC受験者の約80%を日本(約63%)と韓国(約17%)が占めていたとあります。面白いことに、この国別受験者数はそれ以降公表されておらず、現在正確な数字は分かりません。ただ2013年の韓国紙にも同様の記事があったようですし、先ほどの2019年レポートに「アンケート回答者はアジア地域の割合が高く、他の地域の結果を正確に反映していない場合があります。」とあるので、恐らく世界中で日本人が主に受けている試験であることに変わりないでしょう。
正直、国別平均スコアのランキングを公表している意味が分かりません。ましてや、その中で「日本は○○位」→「日本人の英語力は低い」と騒ぐのは見当外れだと思いませんか?
② TOEICは日本人の要請により生まれたテスト
TOEICはTOEFL、SAT、GREなどを手がけるアメリカのETSがプログラム開発・運営しています。だからアメリカ発祥のテストだと勘違いしている人は多いと思います。しかし、TOEICが日本人の要請により生まれたテストであることは、TOEICの実施・運営を日本で行うIIBC(一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会)の公式ページで説明されています。
1970年代、日本は世界経済に組み込まれ、日本企業の海外進出が増加。海外での企業運営や貿易摩擦を緩和するのに英語ができる日本人がもっと多く必要になった。そこである日本人がETSにテスト開発を打診し、後に経団連と通産省が加わって開発を要請。そこでできたのがTOEICです。1979年の第1回テストでは受験者が集まらず、松下電器や富士通といった大手企業のテコ入れで、1981年に第2回目のテストを実施。以降、実施回数の多さ、比較的安い受験料、学校や企業等の団体で受験できる気軽さなどをウリに、順調に受験者を伸ばしてきました。
しかし、1970年代には既に国産の英検がありました。それなのに何故、わざわざETSに開発を依頼したのか疑問が残ります。
前述のある日本人とは、米紙TIMEで長年働いてきた北岡靖男氏であるようです。彼は日本人の英語力不足を痛感し、英語教育を目的とした国際コミュニケーションズ社を設立、スピーキングに重きを置いた新しい英語テストの実施を企画した。そこで元同僚からETSと組むことを勧められ打診したものの、ETS側から非営利団体の受け皿が必要と返答があった。既に英検を実施していた文部省(現・文科省)が難色を示したため、知り合いの元通産省官僚で財団法人世界経済情報サービス(現・IIBC)の理事に助けを求め、公的支援を取り付けてETSにテスト開発を依頼。(財)世界経済情報サービス傘下には、1979年元通産官僚や財界人をメンバーにしたTOEIC運営委員会ができた。こうした経緯があるようです。
だからTOEICはビジネス向けなんだね
しかし、2007年までHearing、Readingだけでテストが開発・実施されてきた事実を見ると、北岡氏の初心からかなりズレてしまったように思います。支援した財界人たちと折り合いをつけた結果なのかも知れません。恐らく、当時の日本人が求める英語力は、書類や研究論文を読めることに主眼があり、Reading偏重の試験になってしまったのでしょう。また、SpeakingとWritingにはテスト実施により多くのコストと手間がかかりますから、その部分を端おってしまったのだと思います。
一説によるとETSへは約16億円のライセンス料を毎年支払っているとのことですが、IIBCの財務情報を見てもすぐにそれと分かるものはありませんでした。平成30年度の正味財産増減計算書には、事業収益だけで111億円あり、正味財産期末残高が約91億円とあります。しかし、一般財団法人なので株主に利益を配当することはないし、企業のように設備投資する必要もない。これだけの収益を得てどうするんでしょうか。本来なら、もっと受験料を下げるべきだと思いますが。。。
2. TOEICで高得点取っても英語ができないワケ
TOEICは初期からListening、Readingだけでテストが行われ、2007年に改定されてはじめてSpeaking、Writingが加わりました。何故Listening、Readingだけでテストが行われてきたのか?公式サイトによれば、ListeningにはSpeakingと、ReadingにはWritingと非常に高い相関性があるため、テストはListening、Readingだけで十分と判断したそうです。そりゃ、それぞれのデータに相関はあるでしょう。しかしインプットする能力とアウトプットする能力は別です。英語で話すには日本語と違う筋肉の動きを体得しなければならないし、書くには脳で沢山の情報処理をした結果、最適解を紡がないといけない。まず膨大な量のインプットがあって、少しずつアウトプットして、またインプットして。。。と相乗効果で能力が高まるのはどの分野においても共通の事実なはず。
だって考えてみてください。もし生まれたての赤ちゃんが喋り出したら皆びっくりしますよ。彼らは胎内にいるときから、ずっと外の世界の音を聞いています。生まれて、家族から沢山話しかけてもらって、体の発達とともに少しずつお話しできるようになります。字が書けるようになるのはもっと年数が経ってからです。繰り返しになりますが、膨大な量のインプットがあって、はじめてアウトプットできるのです。インプットされた知識量=アウトプットできる能力ではありません。
到底、Listening、Readingだけのテストではコミュニケーション能力のモノサシにはならず、かなり前段階的な知識や音の認識をチェックしているだけです。そうしたTOEICは検定試験として不十分という専門家からの批判もあって、2007年からTOEIC Speaking & Writingが導入されました。しかし、いまだにTOEIC Listening & Readingの受験者が大多数のようです。2019年度の日本における総受験者数は241万人、うちTOEIC L& Rは220万人となっています。これは非常にゆゆしき事態です。だって、いまだに日本ではコミュニケーションの本質が認識されていないということですから。。。
さらに言うと、アメリカでは会話ありきで、読み書きは二の次です。日本と比べると、生活や仕事の中で、彼らは電話を使い、直接会って話すことが圧倒的に多い。お喋り好きな人が多いのもあると思いますが、会話する方が物事が早く進むというのもあるかもしれません。アメリカ人、街中でもどこでも本当にずーっと喋ってます。だから英語ネイティブの人たちと対等にやり取りするには、まずListening、Speaking ができないと相手にされないのです。逆に、日本語を全く話せない外国人が、何故かちょっと難しい日本語を知っていて読めたら可笑しいですよね。日本語は話せないけど、読んだり少しばかり書ける外国人と一緒に働きたい、採用したいと思いますか?TOEICは長らく、そうした意識が欠落した試験だったのです。
3. TOEICを上手く活用するには
ただ、日本ではTOEIC L&Rが就職や昇進にかなり影響しているのは現実問題としてあると思います。英語ができない日本人のお偉い方が採用や昇進決定するのには使いやすい指標なのでしょう。これだけ浸透していると、しばらく日本のTOEIC信仰はなくならないだろうと思います。
いずれにせよ、前述の通り英語力を計る試験としてイマイチだし、継続的に受験してスコアを上げる意味もないことを理解した上で、私はTOEICの使い方は2通りあると思っています。
- 雇用、昇進のためのツール
- 英語力をつけた後の腕試し
1の場合は、英語力をつけるというより、TOEICは雇用・昇進のチャンスを獲得するためのツールと割り切ってしまうことです。700〜750点くらいまでなら、高校までに習う英語力で語彙を増やし、リスニングに少し慣れれば何とかなります。必要なスコアを取るため短期的・テクニック的な勉強を、なるべく手間暇かけずにやるのが良いと思います。
ただ、800点、900点欲しいという場合は、テクニック的な勉強ばかりするのは逆に無駄です。恐らく、英語で仕事をしたいというレベルだと思うので、本当の英語力を身につけられるよう勉強するべきだと思います。
本当の英語力とは、ちゃんと聞いて、話して、読んで、書けるという本来身につけなければならない四技能のことで、これをバランスよくやるべきです。そうすれば、どんな試験だって問題ないです。
2は、そういう本当の英語力をつけた後の軽い腕試しとして使うという意味です。この場合、TOEIC L&RとTOEIC S&W、両方受験するのが理想的だと思います。